メジャーリーグでリリーフ投手を評価する下記の指標についてまとめました。
- セーブ
- ホールド
- IR
- RE24
- WPA
- シャットダウン(SD)、メルトダウン(MD)
RE24、WPA、シャットダウン(SD)、メルトダウン(MD)などのセイバーメトリクス系の指標についてはデータ分析サイトFangraphsを参照しています。
Fangraphsで投手成績を見るときなどの参考にしていただければと思います。
(※本記事で紹介する指標は、必ずしもリリーフ投手のみを対象としたものではなく、打者や先発投手の評価にも使用されるものも含みます)
セーブ(SV)、セーブ失敗(BS)、セーブ成功率(SV%)
「セーブ(SV)」は抑え投手の指標です。
チームがリードしている時に、以下の3つの状況で登板し、試合を締めくくるとセーブがつきます。
- 3イニング以上投げる
- リードが3点差以内で1イニング以上投げる
- 同点となるランナー(打者)が、塁上または打席または次打者にいるときに登板
3つ目がわかりにくいですが、例えばスコアが4-0で、9回2アウト1塁2塁の場面で登板した場合、今対戦しているバッターの次のバッターが「同点になりうるランナー(打者)」です。(今打席にいるバッターが塁に出て、次のバッターがホームランで同点になるため)
このとき今打席にいるバッターを抑えて試合を終わらせると、4点差で1アウトしか取っていませんが、セーブが付きます。
この3つの場面での登板を「セーブ機会(SVO)」といい、同点に追いつかれると「セーブ失敗(BS)」が記録されます。(セーブ機会(SVO)= セーブ数(SV)+セーブ失敗(BS))
セーブ数だけで評価しようとすると、単純にセーブ機会があればあるほど多くなってしまうので、選手の能力とは関係ない部分に左右される可能性があります。
そこで、セーブ機会があったときにどれだけセーブに成功したかを示す「セーブ成功率(SV%)」も見ることで、抑え投手についてより妥当な評価ができるかもしれません。
セーブ成功率(SV%)= セーブ(SV)÷セーブ機会(SVO)
良いクローザーの1シーズンのセーブ数の目安は30~40セーブとされています。(2022年は30セーブ以上が10人、40セーブ以上が2人)
セーブ成功率の目安は聞いたことがありませんが、2022年にセーブ機会が10試合以上あった49人の投手のうち、セーブ成功率90%以上が7人、85%以上が15人、80%以上が23人、75%以上が31人でした。
セーブ成功率は85%あたりが1つの目安になるかもしれません。
ホールド(HLD)
「ホールド(HLD)」は中継ぎ投手の指標で、中継ぎ用のセーブみたいな感じです。(日本のプロ野球のホールドとは若干違います)
セーブがつく場面で登板し、リードを保ったまま、1アウト以上をとって降板したときにホールドがつきます。(つまり、降板せずにそのまま試合終了まで投げ切れば、ホールドではなくセーブがつく)
セーブがつく場面については前述した、以下の3つです。
- 3イニング以上投げる
- リードが3点差以内で1イニング以上投げる
- 同点となるランナー(打者)が、塁上または打席または次打者にいるときに登板
ホールドと同じ試合でセーブや勝ちがつくことはありませんが、ホールドと同じ試合で負けがつくことはあります。
リードを保ったまま1アウト以上をとって降板し、降板後に自分の責任となる残したランナーがかえって逆転された場合は、ホールドと負けが記録されます。
セーブと違って試合を締める必要がないので、打たれまくっても1アウトだけ取って降板時にリードを保てていれば、ホールドがついてしまうのです。
セーブは1試合に最大1人しかつきませんが、ホールドは複数人に記録されることができます。
目安は1シーズン20~30ホールドです。(2022年は20ホールド以上が21人、30ホールド以上が2人)
IR、IR-A、IR率
「IR(Inherited Runner)」は、リリーフ登板時に既にベース上に残っているランナーの数です。
無理やり日本語にすれば、継承ランナーです。
例えば、ランナー1塁2塁の場面で登板したときのIRは2となります。
この2人をホームにかえしてしまったときは失点や自責点となりませんが、その代わりにこの2点を「IR-A(Inherited Runs Allowed)」と呼びます。
無理やり日本語にすれば、継承失点です。
ランナーがいる場面で登板するリリーフに期待される役割は、ランナーをホームにかえさないことですが、ランナーをかえしてしまったとしても防御率などには影響しません。
継承したランナーはきれいにかえすくせに、自分が出したランナーは決してかえさずに抑えるようなピッチャーは、防御率などでは良い成績を残しているように見えますが、勝利に貢献しているとは言いがたいです。(一部ネット上では防御率詐欺などと呼ばれる)
そこで、何人のランナーを継承し、何人の継承ランナーをホームにかえしてしまったかを示す「IR率」が有用です。(低ければ低いほど良い)
IR率 = IR-A(継承失点) ÷ IR(継承ランナー)
IRはとてもわかりやすい指標ではあるものの、状況を単純化しすぎています。
登板した時にランナーが1人いる状況を考えると、継承ランナーが1塁にいてもIRは1、3塁にいても1、1点差の試合でも1、10点差の試合でも1です。
ランナーをかえさない難易度や重要度が異なっていても、等しく扱ってしまうことになります。
IRやIR-AはMLBの公式サイトにも記録がのっているので、簡単に確認できるというメリットはありますが、セイバーメトリクス界隈では重視されていません。
RE24
「RE24」はアウトカウントやランナーの位置などの場面を考慮して、プレーを評価する指標です。
RE24自体はリリーフだけでなく、打者や先発投手にも用いられる指標ですが、特にリリーフの評価に適しているとされています。
RE(Run Expectancy)とは得点期待値のことで、あるアウトカウントとランナーの状況で、何点入るかを計算するものです。
ノーアウト満塁で大量得点することもあれば、無得点に終わることもありますが、全てのアウトカウントとランナーのケースで、その状況からそのイニングが終わるまでに何点入ったかについて過去の全記録を確認し、それぞれの状況で平均をとったものが得点期待値です。
<2010~2015年の得点期待値(出典:http://www.tangotiger.net/re24.html)>
1塁 | 2塁 | 3塁 | 0アウト | 1アウト | 2アウト |
0.481 | 0.254 | 0.098 | |||
〇 | 0.859 | 0.509 | 0.224 | ||
〇 | 1.100 | 0.664 | 0.319 | ||
〇 | 〇 | 1.437 | 0.884 | 0.429 | |
〇 | 1.350 | 0.950 | 0.353 | ||
〇 | 〇 | 1.784 | 1.130 | 0.478 | |
〇 | 〇 | 1.964 | 1.376 | 0.580 | |
〇 | 〇 | 〇 | 2.292 | 1.541 | 0.752 |
例えば上の表で、ノーアウトランナーなしの状況からは、そのイニングが終了するまでに平均して0.481点入ります。
ノーアウトランナー1塁の状況からは、そのイニングが終了するまでに平均して0.859点入ります。
1アウト満塁の状況からは、そのイニングが終了するまでに平均して1.541点入ります。
これが得点期待値であり、ほとんどのセイバーメトリクス系の指標はこの考え方に基づいています。
ちなみにRE24の「24」とはアウトカウントとランナーの状況の場面数です。(上の表で期待値が入っているのが24マスある)
RE24では1つのプレー後に、得点期待値がどれだけ変化したかを見ます。
式にすると、以下のようになります。(投手の場合)
RE24 = (1プレー前の得点期待値)-(1プレー後の得点期待値)-(入った得点)
得点期待値の表をもう一度のせます。
<2010~2015年の得点期待値>
1塁 | 2塁 | 3塁 | 0アウト | 1アウト | 2アウト |
0.481 | 0.254 | 0.098 | |||
〇 | 0.859 | 0.509 | 0.224 | ||
〇 | 1.100 | 0.664 | 0.319 | ||
〇 | 〇 | 1.437 | 0.884 | 0.429 | |
〇 | 1.350 | 0.950 | 0.353 | ||
〇 | 〇 | 1.784 | 1.130 | 0.478 | |
〇 | 〇 | 1.964 | 1.376 | 0.580 | |
〇 | 〇 | 〇 | 2.292 | 1.541 | 0.752 |
例えば、1アウト1塁2塁の場面で登板したとき、プレー前の期待値は0.884点です。
ここで三振を取ったとすると、2アウト1塁2塁になるので、プレー後の期待値は0.429点になります。
このとき、
RE24 = 0.884 – 0.429 – 0 = 0.455
となります。
この後、タイムリーヒットを打たれて1失点し、なおも2アウト1塁2塁となった場合は、
RE24 = 0.429 – 0.429 – 1 = -1.000
この後、内野フライに打ち取った場合、イニングが終了するので、
RE24 = 0.429 – 0.000 – 0 = 0.429
となります。
したがって、1アウト1塁2塁で登板し、1安打1失点でイニングを終えたこのピッチャーのRE24は、3プレー分を足して、
RE24 = 0.455 + (-1.000)+0.429 = -0.116
となります。
RE24を用いると、他人のランナーはかえすものの自分のランナーはかえさない防御率詐欺のリリーフを適切に評価できます。
例えば上の表で、2アウト満塁で登板し、出ていたランナーを全てかえしてそのイニングを3失点で終えた時のRE24は-2.248、一方、無失点で終えた時のRE24は0.752です。
どちらも自責点はゼロですがRE24だとはっきり差が出ます。
ただし、点差や何回に登板したかなどは考慮されていないことに注意してください。
9回1点リードで満塁の場面と5回10点差で満塁の場面は、重要度が違いますが、RE24では等しく扱われることになります。
リリーフの1シーズンのRE24の目安は以下のようになります。
<RE24の目安>
評価 | RE24 |
非常に良い | 15 |
良い | 10 |
平均以上 | 5 |
平均 | 0 |
平均以下 | -5 |
悪い | -10 |
非常に悪い | -15 |
WPA
WPAは勝利への貢献度をはかる指標です。
WPAはリリーフだけでなく先発投手や打者にも用いられますが、どんな場面で活躍したかが重視される指標なので、試合終盤に登板するリリーフの評価に特に役立ちます。
WPAのベースとなるのは勝利期待値(WE = Win Expectancy または Win Probability)です。
勝利期待値は試合中の特定の時点でのスコア、イニング、アウトカウント、ランナーのときの勝率を示すもので、過去に同じような場面になったケースでの勝敗をもとに計算されます。
例えば、1点ビハインドで9回裏の攻撃が始まるときのホームチームの勝利期待値は0.194(19.4%)で、そのまま1点差のまま9回裏2アウトランナーなしまで来たときの勝利期待値は0.042(4.2%)、そのあと同点ホームランが出たとき(依然として9回裏2アウトランナーなし)の勝利期待値は0.532(53.2%)、というような感じになります。(参考:http://www.tangotiger.net/welist.html)
WPAはこの勝利期待値をどれだけ変化させたかで計算されます。
先ほどの例で、9回裏1点リードの場面で登板したアウェイチームのクローザーのWPAを見てみます。
アウェイチームの勝利期待値は先ほどと逆になるので、以下のようになります。
- 9回裏/1点リード/0アウト/ランナーなしのアウェイチームの勝利期待値 1-0.194 = 0.806
- 9回裏/1点リード/2アウト/ランナーなしのアウェイチームの勝利期待値 1-0.042 = 0.958
- 9回裏/0点リード/2アウト/ランナーなしのアウェイチームの勝利期待値 1-0.532 = 0.468
このときのクローザーのWPAを考えます。
2アウトまで取ったところでの勝利期待値の変化は、
0.958 – 0.806 = 0.152
なので、WPAは0.152です。
このあと同点ホームランを打たれると勝利期待値の変化は、
0.468 – 0.958 = -0.490
となるので、同点ホームランを打たれたところまでのWPAは、2アウトまでのWPAと足し算して、
0.152 + (-0.490) = -0.338
となり、チームの勝率を33.8%下げたという意味になります。
このようにWPAはプレーによってチームの勝率の期待値がいくら変化したかを示しますが、1プレーで勝率が変化しやすいのは接戦時の試合終盤です。
そのため、WPAでは大事な場面で活躍したのは誰かがわかります。
選手の勝利への貢献度をはかる指標にはWARもありますが、WARでは試合展開などの選手が直接関与できない要因については基本的に除外し、選手個人の能力を評価しようとします。(リリーフだけは登板時の状況も考慮されますが)
したがって、投手のWARのランキング上位には投球回数が多い先発投手が並びます。
一方WPAでは、大事な場面での登板が多いクローザーやセットアッパーもランキング上位にあらわれます。
WPAの1シーズンの目安は以下のようになります。
<WPAの目安>
評価 | WPA |
非常に良い | +6.0 |
良い | +3.0 |
平均以上 | +2.0 |
平均 | +1.0 |
平均以下 | 0.0 |
悪い | -1.0 |
非常に悪い | -3.0 |
シャットダウン(SD)、メルトダウン(MD)
シャットダウン(SD)とメルトダウン(MD)はWPAに基づいたリリーフの記録です。
セーブやホールドみたいなものですが、記録される条件がWPAで決まります。
- シャットダウン(SD)はリリーフがWPA0.06以上を得た試合で記録される
- メルトダウンは(MD)はリリーフがWPA-0.06以下を得た試合で記録される
単純な条件でありながらも、WPAを条件としていることで、セーブやホールドよりもチームの勝率により直結する記録であるといえます。
セーブは抑え投手だけ、ホールドは中継ぎ投手だけにつきますが、シャットダウン(SD)とメルトダウン(MD)は抑えにも中継ぎにも同様につくので、全てのリリーフを評価するのに役立ちます。
特に悪い投球をしたリリーフについて、抑え投手はセーブ失敗(BS)が記録されますが、中継ぎ投手には何もありません。
メルトダウン(MD)を使うことで悪いリリーフの評価もしやすくなります。
シャットダウン(SD)はセーブと同じような感じなので、1シーズン30~40が良いリリーフの目安となります。
一方メルトダウン(MD)はセーブ失敗(BS)よりも起こりやすいとされています。
<シャットダウン(SD)、メルトダウン(MD)の目安>
評価 | SD | MD |
非常に良い | 40 | 2 |
良い | 35 | 4 |
平均以上 | 25 | 6 |
平均 | 20 | 8 |
平均以下 | 15 | 10 |
悪い | 10 | 12 |
非常に悪い | 5 | 15 |
まとめ
- セーブ:基本的には3点差以内のリードを守ったクローザーの記録。
- ホールド:基本的には3点差以内のリードを守った中継ぎの記録。
- IR-A:前の投手から引き継いだランナーをどれだけホームにかえしたか。イニングやランナーの位置は考慮されない。
- RE24:得点期待値をどれだけ変化させたか。ランナーの位置は考慮されるが、イニングは考慮されない。
- WPA:勝利期待値をどれだけ変化させたか。イニングもランナーの位置も考慮される。
- SD:WPAを0.06以上得た試合でつく記録。中継ぎもクローザーも同様に評価できる。
- MD:WPAを-0.06以下得た試合でつく記録。中継ぎもクローザーも同様に評価できる。
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