2022年のメジャーリーグ開幕から1か月が経ちましたが、記録的な打低のシーズンとなっています。
その原因についていろいろ言われていましたが、開幕から1か月のデータを見る限り、飛ばないボールのせいにしてよさそうです。
そして、その飛ばないボールの影響を受けやすいのは、大谷のような振り上げるスイングタイプの打者となっています。
※以下、データは2022年5月9日時点のものです。
メジャーの平均打率、長打率の推移
下図は過去15年間のメジャー全体の打率、長打率の推移です。
2022年は打率、長打率ともに過去15年で最低となっています。
振り返ると、2015年から2019年にかけては長打率が非常に高くなっており、2019年の本塁打数は旧記録を大幅に上回っての過去最多となりました。
同時に三振率も高くなっていて、ホームランか三振かというような大味な試合内容が増えていたことから「飛ばないボール」が導入されることになりました。
そういう意味では、長打率が大きく下がっているのは狙い通りなのかもしれません。
2022年と2021年の打撃内容の比較。2022年のほうが良い
ボール以外にも、2022年は労使交渉のもつれにより開幕までの準備期間が短かったため、特に仕上がりの遅い打者側に影響を与えたという声もありました。
しかし、打球の質は2021年と2022年で変わっていないどころか、むしろ2022年のほうが向上しています。
Statcastでは過去のデータ分析により、ある打球がその打球速度と打球角度からどのぐらいの確率でヒットになるかがわかります。(予測打率、予測長打率)
打率 | 長打率 | 予測打率 | 予測長打率 | |
2021 | .244 | .411 | .243 | .408 |
2022 | .233 | .371 | .252 | .435 |
バレル % | ハードヒット % | 打球速度 | 打球角度 | |
2021 | 7.9 | 38.7 | 88.8 | 12.6 |
2022 | 7.9 | 39.1 | 88.8 | 12.5 |
2021年は実際の打率が.244で予測打率が.243、実際の長打率が.411で予測長打率が.408と、ほぼ同じ数値です。
しかし、2022年は実際と予測に差が生まれており、特に長打率は予測長打率を大きく下回っています。
予測打率と予測長打率で言えば、2021年よりも2022年のほうが上で、2022年は2021年よりも良い打球を打っているのになぜか成績が上がらないという状態です。
したがって、この打低は打者側の準備不足や対応不足ではなく、飛ばないボールがダイレクトに影響した結果と考えられます。
飛ばないボールの影響を受けるのは打球角度が高い打者
打球速度95マイル(153キロ)以上の打球をハードヒット(強打)と言います。
以下はハードヒットされた打球の、打球角度別の長打率です。
打球角度 | ~0° | 0°~ 10° |
10°~ 20° |
20°~ 30° |
30°~ 40° |
40°~ 50° |
2021 | .299 | .683 | 1.095 | 2.116 | 1.779 | .377 |
2022 | .279 | .682 | 1.025 | 1.791 | 1.325 | .194 |
打球角度が20°~40°ぐらいで強い打球を打ち上げれば長打になる、という理論のもと強いフライを打とうとしていたのがフライボール革命だったわけですが、2022年はその打球角度20°~40°の長打率が2021年よりも大きく下がっています。
一方、打球角度20°以下では長打率にそれほど差はありません。
したがって打球角度から、飛ばないボールの影響を受けやすいタイプと受けにくいタイプの打者がいると考え、まず2021年に95マイル以上の打球を多く飛ばした打者100人をピックアップしました。
全ての95マイル以上の打球のうち、打球角度が20°以上の打球の割合を「フライ率」とし、100人をフライ率の高いグループ20人、低いグループ20人に分けて2021年と2022年の長打率を比較しました。(2022年の打席数が50打席未満の選手は除く)
<フライ率の高いグループ>
名前 | フライ率 | 2021 長打率 |
2022 長打率 |
差 (2022-2021) |
J.ボットー | 57% | .563 | .135 | -.428 |
M.マンシー | 56% | .527 | .284 | -.243 |
B.ロウ | 54% | .523 | .393 | -.130 |
M.セミエン | 53% | .538 | .234 | -.304 |
大谷翔平 | 51% | .592 | .445 | -.147 |
W.アダメス | 51% | .481 | .487 | .006 |
A.ベニテンディ | 51% | .442 | .404 | -.038 |
T.オニール | 50% | .560 | .330 | -.230 |
B.クロフォード | 50% | .522 | .337 | -.185 |
O.アルビーズ | 50% | .488 | .419 | -.069 |
名前 | フライ率 | 2021 長打率 |
2022 長打率 |
差 (2022-2021) |
A.ガルシア | 49% | .454 | .382 | -.072 |
J.ポランコ | 48% | .503 | .388 | -.115 |
K.ブライアント | 48% | .481 | .351 | -.130 |
M.サノー | 48% | .466 | .148 | -.318 |
A.メドウズ | 47% | .458 | .381 | -.077 |
R.マウントキャッスル | 47% | .487 | .413 | -.074 |
B.ハーパー | 46% | .615 | .509 | -.106 |
S.ペレス | 46% | .544 | .408 | -.136 |
P.ゴールドシュミット | 46% | .514 | .412 | -.102 |
K.タッカー | 46% | .557 | .396 | -.161 |
名前 | フライ率 | 2021 長打率 |
2022 長打率 |
差 (2022-2021) |
<フライ率の低いグループ>
名前 | フライ率 | 2021 長打率 |
2022 長打率 |
差 (2022-2021) |
J.P.クロフォード | 16% | .376 | .546 | .170 |
D.ペラルタ | 16% | .402 | .407 | .005 |
A.ロサリオ | 18% | .409 | .260 | -.149 |
E.ホズマー | 19% | .395 | .520 | .125 |
I.カイナーファレファ | 20% | .357 | .349 | -.008 |
Y.グリエル | 20% | .462 | .315 | -.147 |
DJ.ルメイヒュー | 20% | .362 | .402 | .040 |
Y.ディアス | 24% | .387 | .391 | .004 |
M.ブラントリー | 24% | .437 | .394 | -.043 |
T.エドマン | 25% | .387 | .458 | .071 |
名前 | フライ率 | 2021 長打率 |
2022 長打率 |
差 (2022-2021) |
B.ビシェット | 25% | .484 | .357 | -.127 |
A.ベルドゥーゴ | 25% | .426 | .327 | -.099 |
J.セグラ | 26% | .436 | .446 | .010 |
T.フランス | 27% | .445 | .462 | .017 |
P.スミス | 27% | .404 | .393 | -.011 |
J.ベル | 27% | .476 | .529 | .053 |
J.スクープ | 28% | .435 | .198 | -.237 |
T.ターナー | 29% | .536 | .346 | -.190 |
G.スタントン | 29% | .516 | .433 | -.083 |
R.アロザレナ | 29% | .459 | .365 | -.094 |
名前 | フライ率 | 2021 長打率 |
2022 長打率 |
差 (2022-2021) |
<平均>
フライ率 | 2021 長打率 |
2022 長打率 |
差 (2022-2021) |
|
高フライ率グループ | 50% | .516 | .363 | -.153 |
低フライ率グループ | 24% | .430 | .395 | -.035 |
各グループの平均を比較すると、低フライ率のグループのほうが長打率の落ちが少ない結果となりました。
そして、2021年は高フライ率グループのほうが長打率が圧倒的に高かったにもかかわらず、2022年は低フライ率グループが逆転しています。
もちろん選手個人の調子も関係するとは思いますが、総じて、打球角度が高いタイプの選手が飛ばないボールの影響を受けていると言えそうです。
2021年はアッパースイングで大成功をおさめた大谷ですが、2022年は飛ばないボールが厄介です。
不安はありますが、対応能力が高いと言われる大谷が、今後どのように対応していくのか楽しみにしたいと思います。
※5月27日時点では再びボールが飛び始めたかもしれません。
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